後発品はなぜ作られなくなったのか — いま新規参入すると、内用薬の薬価は中央値10.8円
2026年8月、約4割の企業が後発品の開発・上市を断念しているとする調査結果が報じられ、「ジェネリック・ロス」という言葉とともに業界で議論になりました。先発品薬価の低さも理由として挙げられています。
では、実際に数字はどうなっているのか。薬価ラボは薬価基準収載品目データ(2026年4月改定時点・12,283品目)と2019年10月以降の価格履歴を持っているので、市場全体の薬価構造を計算してみました。結論から言うと、新しく後発品を出そうとしたときに付く薬価は、内用薬で中央値10.8円です。
① ① 後発品が参入する先発品は、その時点ですでに安い
まず「先発品薬価の低さ」を確認します。現在収載されている先発品を、後発品が存在するかどうかで二分しました。
| 区分 | 品目数 | 薬価の中央値 |
|---|---|---|
| 後発品がない先発品 | 3,188 | 1,001.9円 |
| 後発品がある先発品 | 987 | 39.8円 |
25倍の差があります。後発品が参入する頃には、先発品自体が長期収載品として改定を重ね、中央値40円前後まで下がっているということです。
後発品の薬価は先発品を基準に決まります(初収載は原則0.5掛け、内用薬で品目数が7を超える場合は0.4掛け)。基準となる先発品が40円なら、そこから計算される後発品は20円前後から始まります。「先発品薬価の低さ」が理由として挙がるのは、この構造によります。
② ② 後発品の薬価は7年で半減している
さらに、収載後も薬価は下がり続けます。2019年10月と2026年4月の両方に価格がある後発品を追跡しました。
| 剤形 | 追跡品目 | 2019年10月 | 2026年4月 | 変化率の中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 内用薬 | 1,645 | 36.1円 | 18.3円 | −49.7% |
| 注射薬 | 378 | 1,146.0円 | 914.0円 | −21.2% |
| 外用薬 | 302 | 22.0円 | 20.6円 | −15.0% |
内用薬は7年で薬価がほぼ半分になりました。追跡した1,645品目のうち1,377品目(83.7%)が下落しています。一方で264品目は薬価が上がっており、不採算品再算定などの引き上げ措置が効いた品目と考えられます。
③ ③ いま新規参入すると、いくらの薬価が付くのか
ここが本題です。すでに他社の後発品が収載されている成分に後から参入する場合、新しい後発品の薬価は、既収載の後発品のうち最も薬価が低いものと同額で算定されます(令和8年薬価算定基準・第2部2(1)イ)。後から入るほど少しずつ安くなるのではなく、その時点の最安値ラインに横並びでスタートします。
つまり「成分ごとの最安値」が、そのまま新規参入時に付く薬価になります。これを全成分で計算しました。
| 剤形 | 成分数 | 最安値の中央値 | 20円以下の成分 | 10円以下の成分 |
|---|---|---|---|---|
| 内用薬 | 431 | 10.8円 | 334(77.5%) | 184(42.7%) |
| 外用薬 | 131 | 21.6円 | 62(47.3%) | 30(22.9%) |
| 注射薬 | 178 | 708.0円 | 0 | 0 |
内用薬では、431成分のうち334成分(77.5%)で、新規参入時に付く薬価が20円以下になります。さらに184成分(42.7%)では10円以下です。
1錠10円台という価格で、原薬調達・製造・品質試験・安定供給体制・在庫維持まで負担することになります。開発・上市を断念する企業が出るという報道は、この数字と整合します。
注射薬だけは中央値708.0円と桁が違い、20円以下の成分はゼロでした。剤形によって事情がまったく異なる点は、議論の際に区別が必要です。
④ なぜこの構造になるのか
3つのルールが重なっています。
- 初収載時の乗率 — 後発品の薬価は先発品の0.5掛け(内用薬で品目数が7を超える場合は0.4掛け)で始まります。基準の先発品が下がっていれば、出発点から低くなります。詳しくは後発品(ジェネリック)の薬価はどう決まるかで解説しています。
- 2番手以降は最安値と同額 — 既収載品がある成分では、その時点の最安値からスタートします。参入が遅いほど不利になります。詳しくは2番手以降の後発品の薬価はどう決まるかにまとめました。
- 価格帯集約 — 改定のたびに同一成分・規格の後発品が価格帯へまとめられ、全体が下方向に収束していきます。
新規参入を検討する企業から見ると、②の時点ですでに「10円台の薬価で参入するかどうか」という判断を迫られることになります。
⑤ 供給への影響
薬価が下がりきった品目がどうなるかは、実際の販売中止事例で確認できます。2026年8月に公表された沢井製薬46品目・高田製薬31品目の販売中止について、中止品目の薬価を7年分さかのぼった調査では、7年で半値以下になった品目と、薬価が上がったのに中止された品目という性格の異なる2グループが確認できました。詳細は沢井46品目・高田31品目の販売中止 — 中止された薬の薬価を7年分さかのぼって全数調査したをご覧ください。
薬価の引き上げだけでは供給が維持されないケースがあることも、あわせて示されています。
⑥ この分析の前提と限界
- 薬価は2026年4月改定時点、価格履歴は2019年10月以降です。それ以前の推移は含みません。
- 「新規参入時に付く薬価」は、既収載後発品がある成分について成分ごとの最安値を集計したものです。実際の算定では規格・剤形区分の一致が条件となるため、個別品目では前後します。同一成分でも規格違いは別に算定されます。
- 「後発品がある先発品」は薬価基準収載品目リストの区分に基づきます。
- 薬価は消費税込みの公定価格です。本記事の金額に消費税を別途加算していません。
- 変化率の中央値は、2019年10月と2026年4月の両方に価格がある品目のみを対象としています。この間に収載された品目や、削除された品目は含みません。
⑦ まとめ
- 後発品が参入する先発品は、その時点で中央値39.8円まで下がっている(後発品のない先発品は1,001.9円で、25倍差)
- 後発品の薬価は収載後も下がり続け、内用薬は7年で−49.7%(36.1円→18.3円)
- いま新規参入すると付く薬価は内用薬で中央値10.8円。431成分のうち42.7%は10円以下
- 注射薬は中央値708.0円で、剤形により事情がまったく異なる
「4割が開発・上市を断念」という調査結果は、こうした薬価構造の上で起きています。
出典・データ
- 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト」(令和8年4月1日適用)および過去の収載品目リスト
- 「薬価算定の基準について」(保発0213第3号・令和8年2月13日)
- 集計は薬価ラボのデータベース(active 12,283品目・価格履歴145,530行)によるもので、上記の公表データを取り込んで作成しています