OTC類似薬1,042品目を薬価データで分解する — 負担はいくら増えるか、対象の3割は消毒薬だった
厚生労働省は2026年8月5日、OTC類似薬の一部保険外療養の対象となる77成分・1,042品目の一覧を公表しました。「自分の薬が対象かどうか」を調べられる仕組みはすでに複数あります。しかし、その次に来る「では、いくら増えるのか」という問いに、金額で答えた資料はまだ多くありません。
そこで薬価ラボは、公表された品目一覧を薬価基準収載品目データ(2026年4月改定・12,283品目)と突合し、対象品目の薬価分布と患者負担の変化を計算しました。本記事はその結果です。制度の是非は論じません。数字だけを置きます。
① 制度の骨格(一次資料の確認)
まず前提を告示・検討会資料で確認します。
給付と負担の見直しを行う健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号、令和8年6月5日公布)により、費用の一部を保険給付の対象としない「一部保険外療養」が創設されました。厚生労働省「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ(案)」(第4回技術的検討会 資料2)は、その枠組みをこう整理しています。
- 対象は、OTC医薬品と成分・投与経路が同一で、一日最大用量が異ならない医療用医薬品(77成分)
- 対象薬を使用する場合、その薬剤費の4分の1を保険外の別途の負担として支払う
- こども、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方、低所得者、入院患者、医師が長期使用等を医療上必要と考える方等には、別途の負担を求めない配慮を行う
施行は2027年3月が予定されています(施行時期は法令ではなく報道および検討会の議論に基づく記載です)。
対象品目が1,042品目となった経緯も、一覧の脚注に明記されています。令和7年12月時点では約1,100品目でしたが、薬価削除された品目を除き、令和8年7月末にOTC医薬品の販売が開始されたラメルテオン(不眠症治療薬)を新たに対象成分へ追加した結果、令和8年8月時点で1,042品目になった、とされています。
② データ①:1,042品目の中身は「消毒薬」が最大勢力
公表PDFの品目一覧をすべて機械可読化し(抽出件数1,042件・77成分は公表値と一致)、成分ごとに薬効区分へ分類しました。
| 区分 | 品目数 | 割合 | 薬価中央値 |
|---|---|---|---|
| 消毒薬・防腐剤 | 330 | 31.7% | 10.7円 |
| 抗アレルギー薬 | 206 | 19.8% | 22.5円 |
| 鎮痛・消炎薬 | 178 | 17.1% | 13.1円 |
| 皮膚外用薬 | 142 | 13.6% | 15.2円 |
| 胃腸・便秘薬 | 80 | 7.7% | 8.5円 |
| 抗真菌・抗ウイルス薬 | 45 | 4.3% | 36.0円 |
| 去痰薬(L-カルボシステイン) | 29 | 2.8% | — |
| その他 | 32 | 3.1% | — |
| 合計 | 1,042 | 100% | 14.0円 |
報道や議論で名前が挙がるのはロキソプロフェンやフェキソフェナジンですが、品目数で最大の区分は消毒薬・防腐剤で、全体の31.7%を占めます。エタノール(44品目)、イソプロパノール(42品目)、クロルヘキシジングルコン酸塩(59品目)、ベンザルコニウム塩化物(63品目)といった消毒剤が、成分別の品目数上位に並びます。
成分別の品目数トップ10は次のとおりです。
| 順位 | 成分名 | 品目数 |
|---|---|---|
| 1 | ロキソプロフェンナトリウム水和物 | 80 |
| 2 | ベンザルコニウム塩化物 | 63 |
| 3 | クロルヘキシジングルコン酸塩 | 59 |
| 4 | エピナスチン塩酸塩 | 50 |
| 5 | エタノール | 44 |
| 6 | イソプロパノール | 42 |
| 7 | フェキソフェナジン塩酸塩 | 40 |
| 8 | ヘパリン類似物質 | 36 |
| 9 | 酸化マグネシウム | 35 |
| 10 | ロラタジン | 31 |
「1,042品目」という数字の大きさと、患者が外来で実際に受け取る薬の種類の幅は、必ずしも一致しません。同一成分に後発品が多数存在すること、そして病院で使われる消毒剤が品目数を押し上げていることが、その差の主な理由です。
③ データ②:対象品目の薬価は中央値14.0円
品目一覧の品名を薬価基準収載品目(2026年4月改定時点)と突合し、薬価を特定できた696品名について分布を見ます。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 薬価 中央値 | 14.0円 |
| 薬価 平均 | 44.2円 |
| 最低薬価 | 1.0円 |
| 最高薬価 | 1,157.8円(ナゾネックス点鼻液50μg 112噴霧用) |
| 内用薬(189品名)中央値 | 11.6円 |
| 外用薬(507品名)中央値 | 16.5円 |
対象品目の過半は1錠・1g・1枚あたり十数円の薬です。その4分の1は数円にすぎません。一方で、点鼻ステロイド薬のように1本600〜1,200円台の品目も含まれており、1処方あたりの影響は薬によって二桁違います。
④ データ③:実際いくら増えるのか
負担の構造は次のとおりです。薬剤費の4分の1が保険給付の対象外となって全額自己負担になり、残る4分の3について従来どおりの一部負担割合がかかります。3割負担の場合、合計は薬剤費の 0.25 +(0.75 × 0.3)= 47.5% です。
代表的な処方例で、薬剤費ベースの概算を出しました(すべて3割負担・配慮措置の対象外と仮定)。
| 処方例 | 薬剤費 | 現行 | 新制度 | 増加 |
|---|---|---|---|---|
| ロキソニン錠60mg 3錠×5日 | 162円 | 49円 | 77円 | +28円 |
| ロキソプロフェンNaテープ100mg 28枚 | 510円 | 153円 | 242円 | +89円 |
| アレグラ錠60mg 2錠×30日 | 1,254円 | 376円 | 596円 | +219円 |
| フェキソフェナジン錠60mg(後発)2錠×30日 | 1,314円 | 394円 | 624円 | +230円 |
| ナゾネックス点鼻液 56噴霧用 1瓶 | 644円 | 193円 | 306円 | +113円 |
| モメタゾン点鼻液(後発)56噴霧用 1瓶 | 361円 | 108円 | 172円 | +63円 |
| ヒルドイドソフト軟膏 25g×4本 | 1,770円 | 531円 | 841円 | +310円 |
| ヘパリン類似物質油性クリーム(後発)25g×4本 | 630円 | 189円 | 299円 | +110円 |
| 酸化マグネシウム330mg錠 3錠×30日 | 549円 | 165円 | 261円 | +96円 |
1処方あたりの増加は数十円から300円程度です。ただし継続処方では積み上がります。後発品のフェキソフェナジンを1日2錠で3か月分、あわせて後発品の点鼻薬を3本使う花粉症シーズンなら、薬剤費5,026円に対して自己負担は1,508円 → 2,387円(+879円)になります。
⑤ 最も大きく変わるのは「1割負担の人」
負担割合ごとに、薬剤費に対する自己負担率を計算すると、構造上の特徴がはっきりします。
| 区分 | 現行 | 新制度 | 増加幅 | 倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 3割負担 | 30.0% | 47.5% | +17.5pt | 1.58倍 |
| 2割負担 | 20.0% | 40.0% | +20.0pt | 2.00倍 |
| 1割負担 | 10.0% | 32.5% | +22.5pt | 3.25倍 |
薬剤費の4分の1という別途負担は、もともとの負担割合にかかわらず一律に上乗せされます。したがって、負担割合が低い人ほど増加幅も倍率も大きくなります。1割負担の場合、薬剤費に対する自己負担は3.25倍です。
ここで重要なのは、中間とりまとめが低所得者や、がん患者・難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方には別途の負担を求めない配慮を行うとしている点です。1割負担の方の多くは高齢者であり、配慮措置の適用範囲によって実際の影響は大きく変わります。上の表は、あくまで配慮措置の対象外となった場合の構造を示すものです。配慮の具体的な線引きは、まさにいま技術的検討会で詰められている論点です。
⑥ この試算の前提と限界
数字の性格をはっきりさせておきます。
- 薬剤費のみの計算です。 調剤技術料、薬学管理料、診察料は含みません。窓口で支払う総額の変化ではありません。
- 端数処理を含みません。 実際の請求は点数(10円=1点)単位で計算され、丸めが入ります。本記事は薬剤費に率を掛けた概算です。
- 薬価は消費税込みの公定価格です。本記事の金額に消費税を別途加算していません。別途の負担に対する消費税の取扱いは、現時点の公表資料では確認できないため触れていません。
- 突合率には限界があります。 品目一覧1,042品目は品名ベースで1,013件あり、うち696品名を2026年4月時点の薬価基準収載品目と一致させました。残りは、販売名変更や薬価削除により現行の収載品目リストと名称が一致しなかったものです(191品名は当データベース上で過去に収載され現在は削除済みとして確認でき、126品名は同名の品目を確認できませんでした)。後発品の販売中止が続いている領域が多く含まれるため、施行時点の対象品目数は変動する可能性があります。
- 薬価は2026年4月改定時点です。制度施行が2027年3月であれば、その間に2026年度の改定を挟むため、実際の金額は変わります。
⑦ まとめ
- 対象は77成分・1,042品目。品目数で最大の区分は消毒薬・防腐剤(330品目・31.7%)であり、報道で名前の挙がる鎮痛薬・抗アレルギー薬はそれぞれ17.1%・19.8%です。
- 対象品目の薬価中央値は14.0円。1処方あたりの増加は数十円〜300円程度が中心ですが、点鼻ステロイドのように1本600円超の品目もあります。
- 継続処方では積み上がり、花粉症シーズン3か月で約880円(3割負担・後発品)の増加になります。
- 構造上、負担割合が低い人ほど倍率が大きくなります。3割負担で1.58倍、1割負担では3.25倍です。配慮措置の適用範囲が、実際の影響を大きく左右します。
出典
- 厚生労働省「第4回 OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会」資料(令和8年8月5日) — 【参考資料1】別途の負担の対象となる医療用医薬品の品目の一覧(案)、【資料2】中間とりまとめ(案)、検討会ページ
- 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト」(令和8年4月1日適用)
- 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号・令和8年6月5日公布)