2027年度薬価改定に業界4団体が求めた「引き上げ」、委員は何を聞き返したか(薬価専門部会 8月26日 議事録)
2026年8月26日の第248回薬価専門部会は、2027年度(令和9年度)薬価改定に向けた関係業界からの意見聴取でした。日本製薬団体連合会(日薬連)、日本製薬工業協会・米国研究製薬工業協会・欧州製薬団体連合会(製薬協・PhRMA・EFPIA)、日本ジェネリック製薬協会、日本医薬品卸売業連合会(卸連)の4者が意見を述べ、委員との質疑がありました。議事録は10月に公開されました。この記事は当日の資料4本と議事録の両方から、各団体が何を求め、委員がそこに何を聞き返したかをまとめたものです。
① 4団体は何を求めたか
| 団体 | 主張の軸 | 根拠として示した数字 | 2027年度改定への要望 |
|---|---|---|---|
| 日薬連 | 物価高騰・製造原価上昇を薬価に反映する | 企業物価指数(2020年=100)は総平均が131.8、医薬品が82.6(2026年1〜6月平均)。製造原価指数は120.6(日薬連薬価研の27社が2020年までに収載した品目を分析したもので、2026年度分は2,300品目の集計) | 全収載品で物価高騰等を踏まえた引き上げ。特許期間中の新薬は引き下げルールの適用を凍結。基礎的医薬品・不採算品再算定の確実な適用。少なくとも平均乖離率以内の品目は改定対象外に |
| 製薬協・PhRMA・EFPIA | 米国の最恵国待遇(MFN)価格政策 | PhRMA加盟15社の調査で、10社・41製品が日本での収載・上市についてグローバル本社と具体的に協議中。製薬協の常任理事会社16社の93.8%が開発への影響を「既にある」か「今後想定される」と回答 | 特許期間中の製品の薬価引き下げを行わない。市場実勢価と連動しない引き下げルールを実施しない。初収載時の評価や外国平均価格調整の見直しを含む「機動的対応」 |
| ジェネリック製薬協会 | 不採算品再算定の適用範囲と上げ幅 | 2026年度改定の不採算品再算定は158品目(不採算品目の約1割)にとどまり、うち96品目(約6割)は適用後も不採算のまま。適用を受けられなかった品目に供給確保医薬品・基礎的医薬品等830品目が含まれる | 薬価の引き上げと、適用要件の緩和・拡大 |
| 卸連 | 逆ザヤ・流通不採算 | 対薬価仕切価率が100%以上の品目の割合は5.8%(2024年3月)から6.9%(2026年3月)へ。卸が扱う品目の51%は薬価20円未満(金額では11%) | 中間年改定の廃止。実施するなら対象を価格乖離の大きな品目に限定し、重要供給確保医薬品・不採算品再算定品・薬価20円未満の品目は引き上げ |
4者とも方向は「引き上げ」で揃っていますが、根拠の置き方は違います。日薬連は物価指数、新薬3団体は米国の政策、ジェネリック製薬協会は不採算品再算定の適用実績、卸連は仕切価と納入価の逆転です。
② 日薬連の「8.5%」はどう計算したか
日薬連の資料は、引き上げ幅の考え方の一例として2つの式を示しています。企業物価指数(2020年=100)は、2025年に「総平均」が126.7、「医薬品」が84.3でした。つまり5年間で総平均は26.7上がり、医薬品は15.7下がっています。この差のうち単年度分を反映すると(26.7+15.7)÷5=8.5%。総平均の上昇分だけを反映すると26.7÷5=5.3%です。資料ではあくまで「考え方の一例」と位置づけられていて、要望の本体は「薬価改定により薬価を引き上げるべき」という方向の提示です。
③ 委員は何を聞き返したか
議事録で分かる質疑は、大きく4つの筋に分かれます。先に対応を表にし、詳細は下に続けます。発言は薬価ラボで要約しています。
| 委員の問い | 団体の答え |
|---|---|
| 日本の薬価は本当に参照国で最も低いのか。日本の価格を参照して米国価格が下がった例はあるか(江澤委員・佐竹委員) | 群を抜いて低くはないが低いグループで、製品によっては最低か2番目。実際に下がった品目は現時点で聞いていない(PhRMA 五十嵐委員長) |
| 引き上げだけでよいのか。引き上げと引き下げをメリハリをつけて適用すべきでは(佐竹委員) | 税収の増収分を社会保障に充てるべき(日薬連 安川会長)。引き下げで財源を出し続けるのは限界(製薬協 宮柱会長) |
| 引き上げの対象と幅の具体案は(永井委員) | 幅は部会の議論で。重要供給確保医薬品・不採算品再算定品・薬価20円未満を物価対応で(卸連 宮田会長)。不採算品再算定の計算方法の見直し(ジェネリック製薬協会 川俣会長) |
| 限定出荷・販売中止の周知・逆ザヤ・配送縮小・再妥結の現場への影響は(渡邊委員) | 限定出荷は品目数で23%から9%に、4,939品目の約4割が不採算(ジェネリック製薬協会)。土日配送は協議のうえ縮小、妥結リセットの負荷は医療機関・薬局も同じ(卸連) |
MFNについては、江澤委員と佐竹委員が、日本の薬価が本当に参照国の中で最も低いのか、実際に日本の価格を参照して米国価格が下がった例があるのかを尋ねました。PhRMAの五十嵐委員長の答えは、日本は群を抜いて低いわけではないが低いグループにあり、製品ごとに見れば最低か2番目に低い価格になり得る、米国の価格が実際に下がった品目は現時点で具体的に聞いていない、というものでした。あわせて、MFNでは2025年4月から2026年3月の外国薬価をもとに2027年1〜12月の価格が決まるので、今後は日本の価格が米国価格に影響する事例が出てき得るとしています。佐竹委員は、薬事承認から原則2か月で薬価収載される運用など日本市場のメリットをどう考えるかも尋ね、EFPIAのジョンポール会長は2024年度の制度改革と2か月での収載を評価しつつ、環境の変化に政策を合わせる必要があると答えました。
「引き上げだけの要望」への疑問は、健保連の佐竹委員から出ました。実勢価改定の範囲を広くし、引き上げと引き下げの両方をメリハリをつけて適用すべきではないか、という問いです。日薬連の安川会長は、一般会計税収が過去5年で60.8兆円から84.2兆円に増えたことを挙げ、増収分を社会保障に充てるべきだと答えました。製薬協の宮柱会長は、薬価引き下げで財源を捻出し続けることは限界に来ていると述べています。
引き上げの対象と幅については、永井委員がジェネリック製薬協会と卸連に具体案を求めました。卸連の宮田会長は、幅は部会の議論で決めてほしいとしたうえで、重要供給確保医薬品・不採算品再算定品・薬価20円未満の品目を物価対応の中で考えてほしいと答えました。ジェネリック製薬協会の川俣会長は、消費者物価指数へのスライドでは原材料や製造経費の上がり方と合わないとして、不採算品再算定の見直しを求めました。現行ルールは過去の一定期間の原価をもとに計算するため、申請から適用までの間に進むインフレが反映されないこと、流通経費が一定の比率で算定されるため低薬価品では賄えないことを課題に挙げています。
現場への影響は、薬剤師会の渡邊委員がまとめて尋ねました。限定出荷の減少は品目数ベースの数字で、現場では出荷調整が続いていること、8月に2社から多くの品目の販売中止が一度に出て周知が届いていないこと、逆ザヤ、配送の縮小、薬価改定のたびに半年サイクルで繰り返す再妥結の負荷です。ジェネリック製薬協会は、数量ベースの限定出荷率を出すのは難しいとしつつ、品目数ベースで23%から9%まで下がったこと、加盟企業が供給する4,939品目の約4割が不採算であること、川俣会長の会社の例では原薬の価格がこの2年で2.3倍になっていることを答えました。卸連は、土日の配送を得意先と協議しながら縮小していること、至急配送に応えられない地域があること、妥結が毎年4月にリセットされる負荷は医療機関・薬局も同じであることを認めています。
このほか、奥田委員の質問に対して日薬連は、向こう5年間に手を入れないと製造が止まりかねない設備が約3,000億円分あるという調査に触れました。卸連の資料で最低薬価品の薬価差が平均を上回っている点については、調査時点では最低薬価品が別枠扱いになっておらず単品単価交渉から外れていた可能性が高いとして、2026年度からデータベースにフラグを立てて交渉する形にしていると答えています。
この回の議題は意見聴取のみで、審議事項はありません。部会長は、多くの意見を踏まえて事務局が対応するよう求めて閉会しました。
④ 薬価ラボのデータで見ると
薬価20円未満の品目がどれだけあるかは、薬価基準の側からも数えられます。2026年10月21日時点の薬価ラボのデータでは、現行12,315品目のうち4,233品目(34%)が規格単位の薬価20円未満です。後発品に限ると4,388品目中1,863品目(42%)になります。卸連の51%は卸が扱う包装単位の品目数で数えた値なので、母数が違います。どちらで数えても、20円未満は品目数では大きな塊で、金額では小さい、という形は同じです。
供給状況は、厚労省の安定供給状況等管理システムの公開一覧(2026年10月21日取得)で、16,010品目のうち限定出荷が960品目(6.0%)、供給停止が987品目です。ジェネリック製薬協会の9%は、日薬連の供給状況調査と厚労省の供給状況をもとにした後発品の限定出荷比率(品目数ベース・2026年6月)で、母数は後発品です。品目ごとの出荷対応状況は薬価ラボの各薬品ページに表示しています。
2026年度改定で不採算品再算定が適用された品目は、各薬品ページの「薬価改定の理由」で確認できます。判定の仕組みは薬価改定の理由はどう判定しているかに書いています。
⑤ 次に見るもの
事務局はこの回の後、10月7日の第249回で「令和9年度薬価改定について②(新薬)」を示しました。過去3回の中間年改定の対象範囲と適用ルールを一覧にしたもので、第249回の速報で整理しています。過去3回の中間年改定では、改定の骨子はいずれも12月に中医協で了解されています(2020年12月18日・2022年12月21日・2024年12月25日)。
⑥ 出典(一次資料)
- 中医協 薬価専門部会(第248回)議事次第・資料(厚生労働省)
- 薬-1 日本製薬団体連合会
- 薬-2 日本製薬工業協会 米国研究製薬工業協会 欧州製薬団体連合会
- 薬-3 日本ジェネリック製薬協会
- 薬-4 日本医薬品卸売業連合会
- 中医協 薬価専門部会 第248回議事録(2026年8月26日)(厚生労働省・2026年10月6日公開)
- 薬価ラボの品目数は2026年10月21日時点の薬価基準収載品目(現行品)、供給状況は厚労省 医薬品安定供給状況等管理システムの公開一覧(同日取得)