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解説

薬価はどこで下げ止まるのか。最低薬価は床、不採算品再算定は引き上げ。2026年4月に上がった4,265品目の96%はこの2つ

薬価ラボ編集部読了 約17分
目次

2026年4月の薬価改定で薬価が上がった4,265品目のうち、改定理由ページの判定が最低薬価に関わるものは3,424品目、不採算品再算定は669品目で、合わせて4,093品目(96%)です。第8回でこの表を出したまま、2つの規定の中身は書いていませんでした。令和8年「薬価算定の基準について」(保発0213第3号・2026年2月13日)の第3章第8節「低薬価品の特例」に沿って読みます。

第8節は3つの規定でできています。1が基礎的医薬品、2が不採算品再算定、3が最低薬価です。この順番に意味があり、3の最低薬価は「1又は2の要件に該当しない既収載品」にだけ働きます。この回は2と3を扱い、1の基礎的医薬品は別の回で書きます。

どちらも薬価を上げる、または下げ止める側の規定ですが、働き方は別物です。最低薬価は剤形の区分ごとに決まった額を床として置く規定で、不採算品再算定は品目ごとに原価を積み上げて薬価を引き上げる規定です。

① 最低薬価はどう働くか

最低薬価の定義は、新規収載品の章にあります。第2章第3部9は、新薬や後発品の算定額が「別表9の左欄に掲げる医薬品の区分に従い、同表の右欄に掲げる額(以下「最低薬価」という。)を下回る場合には」、原則として最低薬価をその新規収載品の薬価とする、と定めています。収載のときから床は効いています。

既収載品の改定では、第3章第8節3がこう書いています。

薬価改定の際、1又は2の要件に該当しない既収載品について、本規定の適用前の価格が、最低薬価を下回る場合には、最低薬価に改定する。

なお、価格帯集約を受けた医薬品であって、価格帯のうちいずれかの品目が最低薬価を下回る場合は、同一の価格帯に含まれる既収載品の中で最も高額な最低薬価を当該価格帯に含まれる全ての医薬品の最低薬価とする。

(保発0213第3号 第3章第8節3)

第1節の式で計算した額(乖離率から2%を引いた分だけ下げた額)が別表9の額を下回ったら、別表9の額で止める。それだけの規定です。成分も効能も関係なく、剤形と規格単位で区分が決まります。別表9は「日本薬局方収載品」と「その他の医薬品」で額が分かれていて、局方品の方が高く設定されています。

区分(規格単位) その他の医薬品 日本薬局方収載品
錠剤・カプセル剤・丸剤(1錠・1カプセル・1個) 6.30円 10.80円
散剤・顆粒剤・末剤(1g) 6.90円 8.00円
注射剤 100mL未満(1管又は1瓶) 63円 104円
注射剤 100mL以上500mL未満 75円 123円
注射剤 500mL以上 99円 162円
坐剤(1個) 21.60円 21.60円
点眼剤(5mL1瓶。点鼻・点耳液を含む) 94.80円 95.70円
内用液剤・シロップ剤(1日薬価) 7.10円 10.50円
外用液剤(外皮用殺菌消毒剤・10mL) 7.00円 10.70円
貼付剤(10g/10cm×14cm以上1枚/その他1枚) 9.20円/18.20円/13.10円 同左
塗布剤(1g又は1mL。2026年度に新設) 6.30円 10.80円

(保発0213第3号 別表9から主な区分を抜粋)

後発品は第7節で同じ成分・規格の品目が価格帯にまとめられるので、局方品とそれ以外が同じ価格帯に混ざることがあります。そのときは価格帯の中で最も高い最低薬価が価格帯全体の床になる、というのが第8節3の後段です。

別表9の額は長く動いていませんでした。中医協の資料によれば、2000年以降、消費税率の引き上げに伴う対応を除いて最低薬価が引き上げられたのは2025年度が初めてです(概ね3%)。錠剤(その他の医薬品)で追うと次のようになります。

適用期間 錠剤・カプセル剤 散剤(1g) 注射剤100mL未満 坐剤
2016年4月〜2019年9月(消費税8%) 5.80円 6.40円 58円 19.90円
2019年10月〜2025年3月(消費税10%) 5.90円 6.50円 59円 20.30円
2025年4月〜2026年3月 6.10円 6.70円 61円 20.90円
2026年4月〜 6.30円 6.90円 63円 21.60円

2019年10月の変化は消費税率8%から10%への対応分で、2025年度と2026年度が制度としての引き上げです。床が上がれば、床に張り付いていた品目の薬価はそのまま上がります。2026年4月に上がった4,265品目のうち2,363品目は、改定理由ページでこの「最低薬価の引き上げに追随」と判定されています。

2026年度には、最低薬価に関する特例が第4章3に3つ置かれています。

(11)の「改定前の薬価の2倍」は、床のずっと下にいた品目を一度に床まで上げない、という上限です。たとえば改定前の薬価が2.50円の品目は、最低薬価が6.30円でも5.00円までしか上がりません。

令和8年度薬価基準改定の概要によれば、第8節3の最低薬価品目は585成分3,186品目、(10)の「改定前に最低薬価であった品目」は435成分2,185品目(うち薬価を引き上げたもの432成分2,157品目)、(11)のみなし最低薬価品目は84成分302品目(うち引き上げ62成分255品目)です。薬価調査の側では、2025年9月取引分の最低薬価品目の乖離率は7.3%で、全体の平均乖離率4.8%より大きい値です。最低薬価品目は、第1節の式で計算した額が床を下回った品目なので、定義上、乖離率は2%より大きい側に集まります。

薬価ラボの改定理由ページでは、2026年4月改定の最低薬価に関する判定は次の件数です。統一名で告示された後発品を銘柄ごとに数えているので、告示の品目数より多くなります。

2026年4月の判定 品目数
最低薬価の引き上げに追随(前年度も最低薬価で、床と一緒に上がった) 2,363
最低薬価への引き上げ(前年度は床の上にいて、今回床に達した) 711
最低薬価(みなし最低薬価品目) 446(うち上がった品目350)
最低薬価で下げ止まり(第1節の額が床を下回り、床で止まった) 269
最低薬価(薬価維持) 35

② 不採算品再算定はどう働くか

第3章第8節2は、次の品目について「原価計算方式によって算定される額」を薬価とする、と定めています。原価計算方式は新薬の算定でも使う方式で、第1章の定義では「薬価算定単位あたりの製造販売に要する原価に、販売費及び一般管理費、営業利益、流通経費並びに消費税及び地方消費税相当額を加えた額を薬価とする算定方式」です。

1(1)の要件に該当しない既収載品又は1(1)の要件に該当する既収載品のうち、製造販売に要する原価等が著しく上昇したと認められるもの等について、次のいずれかの要件に該当する場合は、原価計算方式によって算定される額(組成、剤形区分及び規格が当該既収載品と同一の類似薬がある場合には、それぞれについて原価計算方式によって算定される額のうち、最も低い額)を当該既収載品の薬価とする。この場合において、営業利益率は、製造販売業者の経営効率を精査した上で、100 分の5を上限とする。

(保発0213第3号 第3章第8節2。冒頭の「1(1)」は基礎的医薬品の対象品目の要件)

要件は2つあり、イは「保険医療上の必要性が高いものであると認められる既収載品であって、薬価が著しく低額であるため製造販売業者が製造販売を継続することが困難であるもの」、ロは新規後発品として収載された品目で同じく継続が困難なものです。どちらも、同じ組成・剤形区分・規格の類似薬があるときは、再算定を希望する品目の販売数量シェアが5割以上である場合に限られます。この「シェア5割以上」は2026年度に入った条件で、それまでは「全ての類似薬について該当する場合に限る」と書かれていました。改定の骨子はこの要件を削除し、シェア5割以上で他の要件を満たす場合を対象にするとしています。

条文には上限と除外も書かれています。

2026年度は、第4章3(8)が適用を限定しています。第8節2の規定は「製造販売に要する原価等が著しく上昇したと認められるものに限り」、しかも次のいずれかに該当する品目にだけ適用する、という書き方です。

令和8年度薬価基準改定の概要によれば、2026年度の不採算品再算定は232成分、告示数704品目(品目数714)でした。内訳は内用薬293・注射薬355・外用薬52・歯科用薬剤4で、先発品99・後発品176・その他品目429です。薬価調査の側では、不採算品再算定品の乖離率は2024年9月取引分で2.1%、2025年9月取引分で1.6%と、全体の平均乖離率より小さい値です。

適用の規模は、年度でまったく違います。

5001,0001,5002,0003820103652012196201411120161842018219202044020221,08120231,911202442920257042026臨時・特例的な適用
不採算品再算定の告示数。2010〜2022年度は通常の適用、2023〜2026年度は臨時・特例的な適用。出典は末尾の一覧
改定年度 成分数 告示数 品目数 適用の枠
2010年度(平成22年度) 20 38 通常
2012年度(平成24年度) 104 365 通常
2014年度(平成26年度) 34 196 通常
2016年度(平成28年度) 47 111 通常
2018年度(平成30年度) 87 184 通常
2020年度(令和2年度) 96 219 通常
2022年度(令和4年度) 131 440 通常
2023年度(令和5年度・中間年) 328 1,081 1,100 臨時・特例。2022年9月の不採算品目調査に基づき全品を対象。乖離率にかかわらず適用
2024年度(令和6年度) 699 1,911 1,943 特例。企業から希望のあった品目。乖離率7.0%超は対象外
2025年度(令和7年度・中間年) 182 429 443 臨時・特例。基礎的医薬品と同一組成・安定確保医薬品A/B・大臣増産要請品目
2026年度(令和8年度) 232 704 714 原価等の上昇+基礎的医薬品と同一組成・重要供給確保医薬品・代替困難品(第4章3(8))

2010〜2022年度の成分数・告示数は中医協薬価専門部会の参考資料「令和7年度薬価改定について」から、2023年度以降は各年度の改定の概要からです。告示数は官報告示の行数で、統一名で告示される後発品を1行と数えるため、品目数より少なくなります。

2023年度と2024年度は「全ての類似薬について該当する場合に限る」という要件を外して適用され、2023年度は1,100品目、2024年度は1,943品目まで広がりました。2025年度と2026年度は対象を3つの枠に絞ったうえで、原価の上昇という条件を付けています。

薬価ラボでは、2026年度の対象品目一覧(別添4)と照合して確定した品目が677あります。669品目は薬価が上がり、8品目は再算定後の額が改定前と同じで据え置きでした。上がった669品目は、2026年4月に上がった4,265品目の16%です。

③ 2つの規定は何が違うか

最低薬価(第8節3) 不採算品再算定(第8節2)
何を決めるか 剤形区分ごとの床の額 品目ごとの薬価
額の根拠 別表9の額。成分・効能は関係ない 原価計算方式。原価は企業が示す
誰の意思で動くか 自動。第1節の額が床を下回れば適用 企業が適用を希望し、要件を満たす品目
上限 床の額そのもの 営業利益率5%、類似薬の原価計算額の最も低い額
乖離率の条件 本則にはない。2026年度は(10)(11)で12.1%・7.3%の線 平均乖離率を超える品目は不適用
2026年度の件数(告示) 最低薬価品目3,186、改定前に最低薬価だった品目2,185 704(品目数714)
乖離率(2025年9月取引分) 7.3%(最低薬価品目) 1.6%(不採算品再算定品)
適用後の扱い 次の改定でも床が効く 再算定後の薬価をみなし最低薬価にする(第4章3(11))

2つの規定は同じ品目に重ねて働きません。第8節3は「1又は2の要件に該当しない既収載品」が対象なので、不採算品再算定が当たった品目に最低薬価の規定は働かず、その代わり第4章3(11)が再算定後の薬価を「最低薬価とみなして」次の床にします。

乖離率の数字が逆向きなのも、条文から読めます。最低薬価品目は第1節の式で計算した額が床を下回った品目なので、実勢価は床よりさらに下にあります。不採算品再算定は、平均乖離率を超える品目を対象から外す規定です。床で止めている品目ほど値引きが大きく、原価で引き上げる品目ほど値引きが小さい、という分布は規定の作りに沿っています。

④ 実例:ベンザリン錠2と錠5

ベンザリンは共和薬品工業のニトラゼパム製剤で、錠2(2mg)・錠5(5mg)・錠10(10mg)・細粒1%があります。薬価ラボのデータでは、錠2には後発品がなく、錠5には後発品があります。2026年4月、錠2は不採算品再算定で上がり、錠5は通常改定で下がりました。

5円6円7円8円9円10円11円錠2 7.90錠5 7.20最低薬価 6.302016202020222024202612
ベンザリン錠2(青)・錠5(橙)の薬価と、錠剤(その他の医薬品)の最低薬価(灰色の帯)。1は最低薬価の引き上げに追随、2は不採算品再算定。横軸は改定ごとの目盛りで、年数に比例していません
改定 ベンザリン錠2 錠2の値動きの説明(改定理由ページの判定) ベンザリン錠5 錠剤の最低薬価
2016年4月 5.80円 10.40円 5.80円
2018年4月 5.80円 9.90円 5.80円
2019年10月 5.90円 消費税率10%への対応で床が5.90円に 9.80円 5.90円
2020年4月 5.90円 9.70円 5.90円
2021年4月 5.90円 9.40円 5.90円
2022年4月 5.90円 最低薬価(薬価維持)・推定 9.10円 5.90円
2023年4月 5.90円 最低薬価(薬価維持)・推定 8.80円 5.90円
2024年4月 5.90円 最低薬価(薬価維持)・推定 8.40円 5.90円
2025年4月 6.10円(+3.4%) 最低薬価の引き上げに追随・推定 7.80円(−7.1%) 6.10円
2026年4月 7.90円(+29.5%) 不採算品再算定・確定(別添4に掲載) 7.20円(−7.7%) 6.30円

錠2は2016年から2024年まで、薬価が錠剤の最低薬価と小数第1位まで一致し続けています。2019年10月の5.80円から5.90円は消費税率の対応で床が動いた分です。2025年4月は床が6.10円に上がったのに合わせて+3.4%、2026年4月は不採算品再算定で6.10円から7.90円になりました。別添4の対象品目一覧には、ベンザリン錠2とベンザリン細粒1%が載っています。

錠5は同じ期間に10.40円から7.20円まで、改定のたびに下がっています。2026年4月の下げ幅7.7%は、第8回の式で逆算すると乖離率9.7%に相当します。錠5の後発品(ニトラゼパム5mg錠)は、2026年度の最低薬価品目一覧(別添9)に5銘柄が載っていて、薬価は錠剤の最低薬価6.30円です。

結果として2026年4月の薬価は、錠2が7.90円、錠5が7.20円、後発品の5mg錠が6.30円です。同じ成分で、含量の少ない規格が最も高くなりました。錠2は床に張り付いた末に原価で引き上げられ、錠5は床の上にいて実勢価で下がり続け、後発品は価格帯と床で止まっている、という3つの道筋が1つの成分の中に並んでいます。

条文と公表リストで確認できるのは、ここまでです。錠2の7.90円が原価計算方式で算定された額であること(第8節2)と、別添4に載っていることは確かめられます。原価の内訳、営業利益率、第4章3(8)のイ・ロ・ハのどれに当たったかは公表されません。2016〜2024年の「最低薬価(薬価維持)」は、薬価が別表9の額に一致していることからの推定で、当時の最低薬価品目のリストは公表されていないので確定できません。錠5が今後どこで止まるかは乖離率次第で、条文からは言えません。不採算品再算定の対象がなぜ714品目にとどまったのか、原価資料の審査や企業の希望の状況も告示からは読めません。業界団体がこの点をどう主張しているかは、中医協ウォッチの記事に書きました。

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⑥ 出典(一次資料)

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