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解説

薬価はなぜ毎回下がるのか。計算式は1本で、下げ幅は「乖離率から2%を引いた分」

薬価ラボ編集部読了 約20分
目次

2026年4月の薬価改定で下がった7,104品目のうち、改定理由ページの判定が「通常改定(市場実勢価格改定)」だけの品目が2,562あります。下がった理由として一番多い判定ですが、その計算式そのものを説明した回がこのシリーズにありませんでした。令和8年「薬価算定の基準について」(保発0213第3号・2026年2月13日)の第3章第1節と別表5に沿って、式を読みます。

告示の上では、薬価が下がる式は1本です。第3章は「薬価改定前の薬価に対して、次の第1節から第12節までの規定を順に適用して算定される額に改定する」という一文で始まり、第1節がその式です。長期収載品の引き下げも、後発品の価格帯も、不採算品の引き上げも、第1節で出た額を後から直す規定として第2節以降に並んでいます。

ただ「なぜ下がるのか」は、聞かれ方で答えの層が変わります。

薬価は「保険医療機関及び保険薬局における薬剤の支給に要する額として、医療保険から支払われるもの」(保険局医療課長通知)です。保険が病院・薬局に払う額は薬価で固定され、病院・薬局が卸から買う値段は当事者の交渉で決まります。家電の店頭価格がメーカー希望小売価格より下にあるのと同じ構図で、買値が薬価を上回れば持ち出しになるので、取引価格は薬価の下に集まります。家電と違うのはその先です。薬価は、前年の取引価格の平均に合わせて翌年の「定価」が引き直され、しかも上がる向きには動きません。この引き直しの式が第1節で、乖離が2%を超えるたびに薬価は一方向に動きます。

卸がなぜ薬価より安く売るのか、値引きの原資はどこから来るのかは、市場の側の話です。建値・リベート・アローアンスの仕組みは旧記事「薬はなぜ値引きされるのか」に書きました。改定がなぜ2年に1度から毎年になったのかは政策の側の話で、2016年12月の四大臣合意にさかのぼります(3番目の見出し)。その圧力がどれほど強く、妥当なのかは条文からは読めない問いなので、条文に書かれたところまでを追います。

① 改定後の薬価はどう計算されるか

第3章第1節は、既収載品の薬価を「市場実勢価格加重平均値調整幅方式(別表5)により算定される額」に改定する、と定めています。別表5の式は次のとおりです。

当該既収載品の保険医療機関等における薬価算定単位あたりの平均的購入価格(税抜き市場実勢価格の加重平均値)×{1+(1+地方消費税率)×消費税率}+調整幅

調整幅:医薬品流通の安定のための調整幅とし、薬価改定前の薬価の2/100に相当する額

(保発0213第3号 別表5。令和8年度薬価基準改定の概要では「×(1+消費税率(0.10))+調整幅 ※地方消費税分含む」と書かれています)

式の中身は、市場で実際に売れた値段の加重平均を税込みに直した額に、改定前の薬価の2%を足したものです。薬価は税込みの価格で、市場実勢価格の加重平均は税抜きで集計されるので、消費税率を掛けて同じ土俵に乗せています。足している2%が調整幅(ちょうせいはば)で、条文にある理由は「医薬品流通の安定のため」の一言だけです。

薬価と税込みの実勢価格の差を薬価で割った割合を乖離率(かいりりつ)と呼ぶと、改定後の薬価は「改定前の薬価 ×(1 − 乖離率 + 2%)」になります。下げ幅は、乖離率から2%を引いた分です。

乖離率 下げ幅
2%以内 据え置き
5% −3%
8% −6%
11.5% −9.5%(2026年4月に下がった品目の下落率の中央値)

薬価ラボの改定理由ページに出る「逆算実効乖離率」は、この式を逆に使い、実際の下げ幅に2%を足し戻した値です。

第1節には但し書きが2つあります。販売量が少ないなどの理由で薬価調査から実勢価格が把握できない品目は、最も似た薬(最類似薬)の改定前後の薬価の比率などで決めること。この方式で計算した額が改定前の薬価を超えることはできないこと。第1節だけでは薬価は上がりません。

後発品は、この式で銘柄ごとに計算したあと、第7節で同じ成分・規格の後発品が価格帯にまとめられます。後発品の薬価が同じ値で横並びになるのは第7節の働きで、第1節の式だけでは後発品の値動きは追えません。

② 乖離率は誰が、どう測るか

式の材料になる市場実勢価格は、厚生労働省の薬価調査で集めます。告示の第1章は薬価改定を「厚生労働省が実施する薬価調査の結果に基づき、薬価に係る厚生労働大臣告示を全面的に見直すこと」と定義しています。何月の取引を調べるかは告示には書かれておらず、中医協に出る速報値の資料に「9月取引分について、販売サイドから報告があったものを集計」とあります。販売サイドとは医薬品卸売販売業者(卸)のことで、厚生労働省の調査の概要によれば、卸の営業所が病院や薬局にいくらで売ったかを品目ごとに報告する「販売サイド調査」と、病院・薬局を抽出して購入価格を聞く「購入サイド調査」の2本立てです。

品目ごとの乖離率は公表されません。公表されるのは全品目を束ねた平均乖離率だけで、速報値の資料は「(薬価×販売数量)の総和-(実販売単価×販売数量)の総和」を「(薬価×販売数量)の総和」で割った値と定義しています。販売額で重み付けした全体の値なので、品目数で見た「下がった薬の中央値」とは一致しません。

4%5%6%7%8%9%7.220188.020198.020207.620217.020226.020235.220244.82025
薬価調査の平均乖離率(速報値・%)。各年9月取引分。出典は末尾の中医協資料
調査年 平均乖離率(速報値) 使われた改定
2018年(平成30年) 約7.2% 2019年10月(消費税率引き上げに伴う改定)
2019年(令和元年) 約8.0% 2020年4月
2020年(令和2年) 約8.0% 2021年4月(最初の中間年改定)
2021年(令和3年) 約7.6% 2022年4月
2022年(令和4年) 約7.0% 2023年4月(中間年)
2023年(令和5年) 約6.0% 2024年4月
2024年(令和6年) 約5.2% 2025年4月(中間年)
2025年(令和7年) 約4.8% 2026年4月

いずれも各年9月取引分の速報値で、出典は末尾の一覧にあります。平均乖離率は2019年と2020年の約8.0%から、2025年の約4.8%まで縮んでいます。

2026年4月改定で下がった品目の下落率の中央値は−9.5%でした。さきほどの式で逆算すると乖離率11.5%に相当し、平均乖離率の4.8%よりずっと大きい値です。平均乖離率は販売額で重み付けした全体の値で、据え置きや引き上げになった品目も含むので、下がった品目だけの中央値とは離れます。

③ 毎年改定になって、対象はどう限定されたか

2021年度から、従来2年に1度だった薬価改定の間の年(中間年)にも改定が行われています。ただし中間年は全品目が対象ではありません。平均乖離率の何倍を超える品目に限る、という範囲の限定が、その年の告示の第1節に書き足されています。

毎年改定になった経緯は、2016年12月20日の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」(内閣官房長官・経済財政政策担当大臣・財務大臣・厚生労働大臣の決定。四大臣合意と呼ばれます)にさかのぼります。この文書は「市場実勢価格を適時に薬価に反映して国民負担を抑制するため、全品を対象に、毎年薬価調査を行い、その結果に基づき薬価改定を行う」と書き、2年に1度の薬価調査の間の年については「大手事業者等を対象に調査を行い、価格乖離の大きな品目について薬価改定を行う」としました。中間年に全品目でなく「乖離の大きな品目」だけを対象にする、という枠はこのときに決まり、何倍を線にするかは年ごとの告示に委ねられています。

2023年度の告示(保発0215第2号)は、「乖離率が全ての既収載品の平均乖離率の8分の5倍を超える既収載品(令和4年10月以降に新規に薬価基準に収載された品目を除く。)について、本規定の対象とする」と書いています。8分の5倍は0.625倍です。2025年度の告示(保発0219第1号)は、係数を品目の性格で3つに分けました。

改定 対象の基準 対象品目数(全体に占める割合)
2021年度(令和3年度) 平均乖離率8.0%の0.625倍(乖離率5.0%)を超える品目 12,180品目(69%)
2023年度(令和5年度) 平均乖離率7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目 13,400品目(69%)
2025年度(令和7年度) 平均乖離率5.2%を基準に、新薬創出等加算の対象品目・後発品・昭和42年9月30日以前に承認された品目は1.0倍、後発品のない新薬(同加算の対象品目を除く)は0.75倍、後発品のある新薬は0.5倍を超える品目 9,320品目(53%)

対象品目数の出典は中医協 薬価専門部会(2026年10月7日)の資料で、表の読み方は中医協ウォッチの記事に書きました。中間年は第3章の全部を使うわけでもなく、2025年度の告示は「第1節、第2節及び第6節から第10節までの規定を順に適用」と、使う節を限っています。

この限定があるので、中間年に薬価が動かなかった薬は「乖離が2%以内だった」とは限りません。薬価ラボのデータでは、2025年4月に据え置きだった5,708品目のうち4,053品目(71.0%)が、改定理由ページで「据え置き(中間年改定の対象範囲外)」になっています。2023年4月は据え置き7,238品目のうち4,099品目(56.6%)でした。対象範囲の外にいただけ、という品目の方が多数です。

④ 2026年4月改定では、どれだけの薬がこの式で下がったか

2026年4月は中間年ではない通常の改定で、告示の品目数は12,272、改定率は医療費ベースで▲0.86%(薬剤費ベースで▲4.02%)でした。薬価ラボで前後の価格履歴が揃う品目は15,342あり、統一名で告示された後発品を銘柄ごとに数えているのが、告示の品目数より多くなる主な理由です。

2026年4月改定の値動き 品目数 割合
下がった 7,104 46.3%
据え置き 3,973 25.9%
上がった 4,265 27.8%
合計 15,342 100%

下がった7,104品目を改定理由ページの判定で分けると、次のようになります。

下がった品目の判定 品目数
第1節の通常改定だけで説明がつく 2,562
第1節で下がったあと、第7節で後発品の価格帯にまとめられた 1,655
価格帯への集約そのもの 1,221
長期収載品の引き下げ(G1) 812

上がった4,265品目は、第8節以降の「支える」規定によるものです。第1節は薬価を上げません。

上がった品目の判定 品目数
最低薬価の引き上げに追随 2,363
最低薬価への引き上げ 711
不採算品再算定 669
みなし最低薬価品目 350
上の4つの合計 4,093(96%)

区分別に見ると、先発品と後発品は半数以上が下がり、局方品はほとんど下がっていません。

区分 品目数 下がった品目 下落率の中央値
先発品 4,057 2,560(63.1%) −9.3%
後発品 6,799 3,803(55.9%) −10.0%
局方品 2,002 133(6.6%) (未集計)

局方品は、据え置き(乖離が調整幅以内と推定)が666品目、基礎的医薬品による維持が394品目、不採算品再算定が380品目で、支える側の規定が効く区分です。

実例を1つ挙げます。カルケンスカプセル100mg(アカラブルチニブ・先発品)は、2025年4月の薬価12,921.9円が2026年4月に11,705.7円になりました。下げ幅は9.41%で、改定理由ページの判定は「通常改定(市場実勢価格改定)」、逆算実効乖離率は11.4%です。12,921.9円 ×(1 − 0.114 + 0.02)= 11,707円で、告示の11,705.7円とほぼ一致します。この薬は2025年9月の取引で薬価より11%ほど安く卸から売られていて、そこに調整幅2%が戻された、という読み方になります。

条文で決まっているのは、計算式、調整幅の2%、中間年の対象範囲です。個々の薬の乖離率は決まっていません。薬価調査の品目別の結果は公表されないので、カルケンスの乖離率が11.4%だったと確定することはできません。逆算実効乖離率は下げ幅から式を逆算した推定値で、第1節以外の規定(長期収載品の引き下げや再算定)が同時に当たっていれば実際の乖離率とはずれます。据え置きの薬についても、乖離が2%以内だったのか、新薬創出等加算で維持されたのか、中間年の対象範囲の外だったのかは、公表リストに載る品目以外は区別できません。薬価ラボの改定理由ページが「据え置き(乖離が調整幅以内等)」を推定の層に置いているのはそのためです。

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⑥ 出典(一次資料)

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